ART COMMUNICATION
RESEARCH CENTER
ACOP

【レポート】「対話型鑑賞ファシリテーション講座 IN えひめ」@えひめこどもの城

概要

本センター研究員 春日が、9月から「えひめこどもの城」や愛媛県内の児童館で働く方たち向けのファシリテーション講座をオンラインで始めている。1回の研修時間は2時間で10回連続講座だ。

コロナ禍がやや収まっている状況となったので11月16日(火)は現地「えひめこどもの城」を会場に対面でのファシリテーション実地研修会を開催することにした。

オンラインでの研修がすでに5回も続いていたので、受講者とはリアルでの対面は初なのに、旧知の仲のように感じられた。これもコロナ禍のなせる業(恩恵)か?おかげで実地研修の会場は和やかな空気に包まれた。もちろん、愛媛のこどもの城のスタッフや児童館職員は以前からよく見知った仲ではあるのだろうが、一堂に会するのは本当に久しぶりということでその高揚感も伝わってくるようだった。

「対話型鑑賞ファシリテーション講座INえひめ」と題されたこの講座では受講者がファシリテーションできるようになること目的にしている。1回目から5回目までは対話型鑑賞についてのレクチャーと「みる・考える・話す・聴く」の精度を普段より少し意識してUPさせるワークショップを盛り込みながら、対話型鑑賞も体験していく。6回目からは受講者が実際にファシリテーションを行うこととし、自らが選んだ作品で他の受講者を鑑賞者として対話型鑑賞を行うことを当初から告知していた。

自身がファシリテートする作品については受講者に選んでいただいた。初めてのことなので皆さん不安もあり迷われたが、個別に相談に応じ、12名の方の作品が決まった。6回目と最終回の10回目は現地でのリアル鑑賞会になるので、そちらでのファシリテーションの希望も含めてアンケートを取った。選んだ作品の難易度も考慮に入れながら、それぞれの回の担当順はこちらで決めた。

11月16日のリアル鑑賞会のファシリテーターは4名。勤務時間の都合で2時間の研修時間しか確保できない。限られた時間を有効に活用するため1作品15分程度の鑑賞、10分の振り返りとした。鑑賞時間のタイムキープはファシリテーターが行うことにした。

まずは当日のファシリテーターの振り返りコメントから

・トップバッターで緊張しました。イメージトレーニングを重ね、準備も自分なりにして備えましたが、振り返りと、構えすぎてますね。せっかちが浮き彫りのようなきがします。真面目すぎな感じですかねぇ、肩の力が入りすぎ もっと自然に鑑賞者主導でファシリできたらよかったです。  

・初めてのファシリテーターをして、自分なりの表現する力を出せなかった。ふりかえりの時に、後で気づく事が多く「話す、聴く」大切さを改めて感じました。また、リモートと対面の違いを感じました。対面だと発言者以外の方の反応など伝わってきて、その空間がオンラインよりも楽しく感じました。次回からは、鑑賞者としてアート作品に向き合い発言していきます。

・初のファシリテーターは、とても緊張し、話している人の話を聴くことに集中してしまい、他の鑑賞者が聞いてる様子や、全体の雰囲気を感じる余裕がありませんでした。また、発言者のいろいろな意見を、瞬時に整理し問いかけたり、掘り下げたりと対応することができず難しかったです。自分自身が、もっと絵を見ていっぱい考えておかなければいけなかったなと思います。

・自分がファシリテーターとなっているときに鑑賞者に絵をじっくり見てもらうことは頭にあったのですが、初めは鑑賞者自らが発言するのを待つことが頭から抜けていて、最初に発言する鑑賞者を指名してしまいました。また、鑑賞者の発言中は要約をどのタイミングで言えばいいのかわからず悩んだのですが、それは人が話している時にどこで相槌や自分の意見を挟めばいいかわからなくなっている普段の自分の話し方や聞き方の癖がそのまま出ていることに気がつきました。

次に自分がファシリテーションすることを想定して考えている鑑賞者のコメント(抜粋)から

・鑑賞者が気付いたことをさらに深めていくときの焦点のあて方や問いかけによって、意見が散漫になるか、集中して深めていけるかが違ってくるんだと思った。先入観を持たず進めることが大切だと感じた。ファシリテーターの意図を反映させてはだめだとも思うが、意見があまり出なかった時に、これについてはどう思いますか?のような新たな意見を出すための問いかけもしなければいけないとも感じた。

・話を進めつつまとめたり、細かい部分の話を深めたり…順番が来たら私もできるかなぁ。

・ファシリテーターがどきどきすると、やはり、聞き手のみんなさんにその緊張感が伝わると思います。なかなか難しい。お互いの信頼関係もすごく重要に関わってくると思います。相手を信頼することが大切ですね。 それと、自分の絵を知ることも大切だと思いました。

最後にリアル鑑賞会で起こっていることについての気付き(抜粋)から

・今は、お互いに知った仲間(ある程度人となりが分かる)だからこそできる対話型鑑賞。 今後、逆に知らない人同士(そこまでではない場合も含む)だからこそできる対話型鑑賞。 それも楽しみです。 ファシリの引き出し方だけではなく、参加者の発言でその先が影響されることもあるので、対話型鑑賞のライブ感やみんなが作り上げているということを実感しました。

・参加者が会しての今回の講座は、集まったからこその、その場の空気感や温度がダイレクトに感じられました。ファシリテーターも発言者も、もちろん緊張もするけれど、お互いの表情を、マスクをしていても見て取れる距離感。言葉のキャッチボールがしやすい距離と感じました。オンラインで実際にファシリテーターをすると、また違った感覚かと思うので、それもまた勉強です。

・初の対面形式での対話型鑑賞でしたが、会場の程よい雑音(うなずく音や考えるときに腕組みする音など)を敏感に察知できるのは、他には代えられない利点だと思いました。 オンライン形式では感じられない臨場感と言うのでしょうか。 例え発言をしていなくても、それぞれの人から発せられる情報を敏感にキャッチする力も、ファシリテーターにとっては重要なスキルだと思いました。

受講者は普段から子どもに接していることから、無意識にファシリテーションしているところがあると思われる。気づかないうちに・・・。だから、今回の実地研修では、どなたもそれなりにファシリテーションはできていた。それを踏まえて、残り4回の研修でファシリテーションをより意識化(無意識からの脱却)することで精度がよりUPし、子どもの「自発性」や「学び」につながる促しがさらに充実したものになっていくと思われる。

対話型鑑賞の手法を用いながら、受講者がそれぞれの活動場所で子どもたちと接する際の場づくりや声がけ、興味・関心を引き出すためにできることは何なのかを対話型鑑賞のファシリテーションを行うなかで、つかんでいただけるよう残りの研修を伴走していきたい。

京都芸術大学 アート・コミュニケーション研究センター春日 美由紀