講談社「COURRiER Japon」2010年3月号に掲載された記事を紹介します。
「アートで治安が向上する?」と題した同誌の記事は、「スミソニアン・マガジン(USA)」の記事を紹介する形で、アメリカ・メトロポリタン美術館で行われた「警察官の”知覚力”養成研修」について伝えています。研修では、警察官たちはある17世紀絵画を、タイトルや作者といった情報を与えられないままに鑑賞して、見えたことから作品の中で何が起きているかを推理し、さらに言葉で伝えることが求められます。記事によると、この研修の目的は「固定概念を捨てて状況を観察し」、「それを正しく伝達する能力」を高めること。つまり、知覚力とコミュニケーション能力の向上です。実際、この研修を受けた警察官たちは事件現場や逃走する犯人を描写して伝達する際に、より具体的に、かつ客観的で相手に伝わりやすいように言語化することができるようになるそうです。
このシンプルな取り組みは、よくみて(観察)、考えて(思考)、きちんと伝える(言語化)ことを大切にするという点でACOPと共通しています。そして、これらの能力が警察の仕事にも活かされているように、単にアート作品を読み解くだけでなく、人が社会のなかで生きて、コミュニケーションをするために必要な力だと考えています。
また、この研修が美術館で、アート作品を用いて行われていることもユニークです。アート作品は、しばしば「タイトルや作者を知っていなければ分からない」といって敬遠されます。しかし、この研修ではそれら作品にまつわる情報は排除されて、作品の視覚情報に正面から向き合うことが求められています。つまり、先入観や固定概念を捨てて、目の前の状況(=作品)から観察・推理するという、警察官としての能力が試されているのです。この点も、作品の「謎」や「解釈の余地」に対して、私たち自身が意識をもってチャレンジするという点と似通っています。
ACOPのコンセプトが活かされているユニークな実例を伝える記事として、同誌編集部の了解を得て紹介します。
講談社「COURRiER Japon」2010年3月号P.76
http://courrier.jp/
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B0035GJ1QA/
原文記事
http://www.smithsonianmag.com/arts-culture/Teaching-Cops-to-See.html
文責:北村